文体練習 その1

風のないすっきりとした朝,空はぬけるように青い.
用もないので,渋谷の名画座で二本立てでも見ようと思いジーンズをはいて,バスクシャツを着た
部屋を出て,通りを渡り,500メートル程先にあるバス停を目指した.


右手に,時々惣菜等を買うデリカテッセンを見る.
中では店主の痩せたおじさんと,少しいじわるそうなおばさんが背中を向けあい黙々と調理していた.

その向かいには小さな小さな八百屋があって,おばあさんと若い男が言い争いをしていた.
「俺は盗ってないですって」と男
「あたしは見たんだよ!その手提げの中を一度見せなさい!」とおばあさん
男はもう相手にしていられないといった顔で,トートバッグをむんずと掴んだおばあさんの手を引き剥がし
「盗ってないですから!」と言い残し走り去った.

路地に入って,マンションの間にある公園を渡るともうすぐバス停である.
公園には若いお母さんたちが子供を遊ぶのを見ながら雑談していた.

向こうに見えるバス停に,さっきの若い男が立っていた.
周りを少し気にする様子で,バッグから真っ赤な林檎を取り出して,シャツで少し拭った後でそれを齧っていた.

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