キャタピラー

キャタピラー / 2010 84min.
Dir:Koji Wakamatsu

 劇場がすげー混んでた。もしかしたら若松映画最大のヒットになるんではないか。ただその興行的成功と作品の質は一致していない。キャタピラーはいつも通りの若松映画の域を出ていない。個人的に映画作りの姿勢・映画界での在り方など尊敬する監督であるが作品はアタリが少ない。ハッキリ言えばキャタピラーは駄作だと思う。良くも悪くも若松組の特徴であるB級技術によって、今回は原作(『芋虫』江戸川乱歩著)を殺してしまっている。それこそ原作の四肢を削ぎおとしてしまった感じだ。若松監督は前作が連合赤軍で今回が第二次世界大戦。ここ最近は過去を振り返り、時間が経過した事件・出来事に挑戦している。前作の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は連合赤軍に新たな視点を与えている(その真偽は議論の余地があるけども)ことが素晴らしかった。ある程度の時間が経つことで事件の全体像が少しは明らかになっている中で、当時では見えなかった新しい視点を用いることで事件を再検証し再定義しようとする試みが良かった。しかし今作『キャタピラー』においては戦後60年以上が経過しているにも関わらず何一つ新しい問題提起も視点もない。負傷帰還兵、軍神、大日本帝国。この辺のテーマは勿論新しくもない。そしてそこに五体満足ではなくなった男と女を性という切り口から入って肉体的・精神的主従関係の側面で描いているんだけど、これも別に新しくないし展開もありきたりな方向に流れていく。その男と女の加害・被害の構造を戦争における加被害の同時二面性とリンクさせてんだけど、それで?って感じですよ。そこからもう3歩くらいつっこんで欲しい。もうとにかく全てが予定調和に進んでいって退屈なんだよね。途中から映画の終わり方に関して嫌な予感が止まらなかった。そして見事に一番楽な終わらせ方をしている。そして映画の最後の大締めが「反戦」である。しかも唐突に、ザックリとした、幼稚な「反戦」でこの映画は締められる。これを戦後すぐに作ってたら評価は違うけど、今は2010年だからね、正直60年も経ってるのにこんなもんしか作れないの?っていう。
 若松監督が寺島のスッピン(寺島本人からのアイデア)をもって「皮膚感」を表現するためと言い放ち、また化粧を許している昨今の映画界へ苦言を呈していたから今回はさぞかし丁寧に撮影し見事に「皮膚感」が表現できているんだと期待していたけど、そこも裏切られてもうあんまホメるとこねーやって感じ。P2HDは劇場レベルだとキツいなーって思ったし、そもそも画が繋がってねーし(カメラマンと記録さん、しっかり)、音声も寺島が叫んでるとこでワレてるとこあったし、ドリーじゃなくてズームばっかり使うし、時間経過の表現が下手だし(ディゾりかたオカシーし)、でもその辺は若松映画らしさとしてむしろ楽しまないとダメだよね

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