あるXYの記録

 田舎において自動車は若者にとって単なる移動手段ではなくステータスの一つでもあった。この面においてXYの其れは決して誇れるものではなかったが当の本人は世俗的な価値とは裏腹に自分の車を気に入っていた。我が軽自動車の最大の魅力こそその狭さそのものである。薄く頑丈に伸ばされた鉄っぺらが隔離するこの空間の狭さがデートの時に親密な距離感を演出してくれる。
 榛名山までの車内は本の話で盛り上がった。目的地に近づき車を停め街を見下ろせる場所まで歩くことにした。XYはXXの横に並び歩いた。ただ歩いた。なぜかさっきまでの盛り上がりは消え失せ二人の間には緊張感が張りつめていた。二人は黙って目的地まで歩いた。
 街が一望できるその場所に辿り着くとXYは「どう?」とXXに投げかけた。彼女は
 「すごい綺麗」
 と答えた。XYは彼女が心の底からそう思っていると感じた。しばらく二人で景色を眺めた。そしてこの後XXは思いがけない事を口にした。

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