筑波山借景










限りなく白に近いジーンズに、股間に汗染み、
ウィンドブレイカーの上にスカジャンをはおり、
農協で貰ったキャップにティアドロップのサングラスをしている。
酒と寒さのせいで常に頬は赤く、にやけ顔の歯は汚い。
いつも警備員の持つような赤色に光る棒を持ち、我々が思いもよらぬような声で鳴く。

筑波山神社が初詣で賑わうなか、入口付近の土産物屋の倅である彼もこんな時には働く。
気持ちが高ぶると道の真ん中に立って、交通整理のまねごとをする。
頼まれもせぬその交通整理は、周囲に怒りの感情と酒の匂いを振りまいた。
紅潮した彼の顔は満足だった。昨日は9時前に不意に寝てしまってできなかったからと、
一生懸命考えた身振り手振りで参拝客を迎えた。

筑波山の深い霧にクラクションが鳴り響き、その数が108を超えると彼は道に立つことをやめた。   
それが彼にとっての除夜の鐘だった。

部屋に戻るとラマルセイエーズを歌いながら、筑波山名物ガマの油を体に塗った。

三日後、いや、二日後にはちゃんとしよう。ガマの油の口上も覚えるし、値札を見ないで服を買う。    
ケセラセラケセラセラ。そんな彼を目下にし、イザナミとイザナギは慈悲深い涙を流し、それらは筑波山の深い霧となりそこに留まった。



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